大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ラ)812号 決定

抗告人 大川一行こと金一行

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、「原審判を取り消し、更に相当の裁判を求める。」と申し立て、抗告理由として別紙「抗告理由書」の「二抗告の理由」のとおり主張する。

そこで考えるに、国籍法二条一号にいう「出生の時に父が日本国民であるとき」とは、子が出生の時において、その子の父が親族法上の父であることを意味し、子の出生後に認知がなされ、その効果が出生時に遡つて父子関係が形成されるような場合を含まないと解するのが相当である。なんとなれば、出生による国籍の取得は、原則として出生時点において確定されるべき性質のものであり、実定法の規定から見ても、右二条一号は、旧国籍法(明治三二年法律第六六号)一条と同一文言の規定で、右旧規定の趣旨を改正するものではないと解されており、右二条一号の文言上からも右のように解するのが自然であり(旧国籍法一条も右のように解されていた)、右旧国籍法五条三号には更に外国人が日本国籍を取得する場合として「日本人タル父又ハ母ニ依リテ認知セラレタルトキ」と規定されていたが、これにあたる規定が現行国籍法の制定にあたつて設けられず、従つて、日本人たる父によつて認知されたからとて、現行国籍法のもとにおいては、当然には日本国籍を取得するものではなく、この場合を含めて帰化によつて日本国籍を取得するものと解すべきである(例えば、旧国籍法当時は日本人の妻となれば当然に日本国籍を取得したが、現行国籍法のもとでは帰化によつて日本国籍を取得すべきものとしている(同法六条一号))からである。

そうすれば、右と同旨にでた原審判は相当であり、子の出生後に認知がなされ、その効果が出生時に遡つて父子関係が形成される場合に、父が日本国民であるときは、子は出生時に遡つて日本国籍を取得すると解すべきであるとの抗告人の主張は理由がないといわなければならない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 糟谷忠男 渡辺剛男)

別紙 抗告理由書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例